4年ぶりのアップデート
ビットコインが2021年11月に大型アップデート「Taproot(タップルート)」を実施する予定です。
2017年のSegwit実装から実に4年ぶりとなる大型アップデートとなります。
Taprootは日本語だと植物の「直根」「主根」などを表す言葉です。
種から真っ直ぐ伸びる根のイメージから付けたのでしょうか。
仮想通貨(暗号資産)の王者であるビットコインはこのTaprootによってどう変わるのでしょう。
Taprootの内容とアップデートがもたらす影響について解説します。
2017年 セグウィット(Segwit)実装
2017年に行われたビットコインのアップデートでは、処理能力以上に取引が集中して送金遅延や送金手数料の高騰をもたらすスケーラビリティ問題の解消が大きなテーマとなりました。
開発コミュニティはスケーラビリティ問題の改善策としてセグウィット(Segwit)という機能の実装を選択します。
Segwit(Segregated Witness)は、取引記録のデータ中で大きな割合を占める署名データを別に保存する技術で、1つのブロックに入れられる取引件数を約2倍にできるようになりました。
つまりビットコインは実装前に比べて約2倍の取引件数を処理できる様になったのです。
ビットコインコキャッシュの分裂騒動
但し2017年のアップデートでは、主にこのSegwitの実装を巡ってビットコインコミュニティが分裂し、混乱を招きました。
中国のマイニング企業を中心とするグループがSegwitの実装に反対したのです。
Segwitを実装するとマイニンググループが使用していたマイニング専用マシンが使えなくなる可能性があるとの意見が出たことが反対の理由です。
結局この議論は纏まらず、マイニンググループが独自に仕様変更(ハードフォーク)を実施して別のコインを作り、ビットコインが2つに分岐する事態となってしまいました。
この時にビットコインから分岐して生まれたのがビットコインキャッシュ(BCH)です。
その後ビットコインキャッシュが大きな時価総額を持つ有力コインとして仮想通貨市場で一定の位置を占めビットコインと共存したことで、ビットコインSVやイーサリアムクラシックなど有力な仮想通貨からのハードフォーク(分岐)による派生コインの誕生という流れを作る原因ともなりました。
スケーラビリティ問題の深刻化
混乱と分裂を招いたSegwit実装の後、ビットコインは大きなアップデートを実施しないまま月日を過ごしました。
日進月歩以上のスピードで進化する仮想通貨(暗号資産)の世界の中で、ビットコインは技術的には他のコインに大きく遅れを取ってしまい、多少改善を見せていたスケーラビリティ問題も再び深刻さを増していきました。
そのためビットコインの開発コミュニティでは慎重に仕様変更の議論を進め、ついに大型アップデートTaprootを2021年11月中旬にも実施できるという所まで漕ぎ着けたのです。
意思決定の遅い仕組みビットコイン
ビットコインには運営や開発の責任者が存在しません。
ビットコインの開発はインターネット上に設定されている開発コミュニティの中で議論をして合議制で意思決定がされます。
リップルの様な中央集権的なプロジェクトや、カリスマ的創業者が率いるイーサリアムの様な仮想通貨(暗号資産)と比べると意思決定に時間が掛かりますが、Taprootは既に90%以上のビットコインマイナーに支持されています。
Taprootは2021年5月から3ヶ月間の実装テストが始まっており、問題がなければ11月にアップデート実施に漕ぎ着けます。
Taprootを構成する3つの技術
Taprootではどんな技術が追加されるのでしょうか。
実装される主な技術は以下の3つの技術になります。
●シュノア署名
●マルチシグ
●MAST
シュノア署名
シュノア署名はブロック内に収容していた署名データをブロックの外部で記録する技術です。
取引データの1件辺りのデータ容量が軽くなり、ブロックに多くの件数の取引データを収納できます。
また署名データを切り分けることで匿名性を向上させることができます。
マルチシグ
マルチシグはビットコインを送金する際に複数の署名が必要となるセキュリティ機能です。
マルチシグはセキュリティ能力が高い反面、データ量を多く消費する点がネックでした。
今回ビットコインがジェノア署名を採用することで、署名データをブロックの外に纏めて記録できる様になりマルチシグを実装する環境ができたのです。
MAST
MAST(Merklized Abstract Syntax Tree)は、複雑な取引データを効率的に記述しながらデータの秘匿性も向上させる技術です。
ちょっと難しいですがマークル化抽象構文木と呼ばれる構造に沿ってデータを落とし込み実行するデータと実行しないデータを分けて管理することでサイズを小さくできます。
ビットコインは何が変わるのか
多くの機能が実装されることはわかりましたが、これらの機能の実装によってビットコインはどう変わるのでしょうか。
具体的な改善内容は以下の通りです。
●送金手数料が安くなる
●秘匿性が向上する
●スマートコントラクト
●高速のライトニングネットワークが使える
送金手数料が安くなる
Taprootでは取引記録のデータが少なくなり、処理能力も上がるためスケーラビリティ問題が改善されます。
送金手数料が安くなることが期待できます。
秘匿性が向上する
Taprootによってビットコインの「秘匿性」が大きく向上します。
「匿名性」では無く「プライバシー」が守られる能力が高まるという事です。
ジェノア署名によって署名データが取引データが切り分けられ、更にマルチシグによって署名データに複数の署名が必要となることで取引の特定は難しくなります。
スマートコントラクト
ビットコインは元々スマートコントラクト機能を抱えてはいるのですが、実際には殆ど使われていません。
Taprootによって取引により複雑な条件を容易に組み込むことができる様になり、コントラクト機能の活用が一歩進むと考えられます。
高速のライトニングネットワークが使える
ライトニングネットワークは、ビットコインのブロックチェーンの外で取引を行うことによって送金速度を早め手数料も大幅に削減できる方法です。
Taprootではライトニングネットワークも強化され、高速で送金手数料が格安の取引を提供できるようになります。
まとめ
ビットコインはTaprootによって新しい段階に進みます。
技術的には時代遅れであくまで「象徴」として価値を持っていたコインから「使える」コインへと動き出そうとしているのです。
ビットコインの開発コミュニティが合意を形成して前進する手順と実績を手に入れたこともポジティブな話です。
ビットコインが今後どの様な進化を遂げるか、注目して下さい。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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