エルサルバドルがビットコインを法定通貨に⁉その背景を解説

各国の状況
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ビットコインの法定通貨化

中米エルサルバドルナジブ・ブケレ(Nayib Bukele)大統領が、2020年6月に開催されたビットコインカンファレンスの場で「ビットコインを法定通貨として採用する」考えを正式に表明し、このニュースが世界中を駆け巡りました。
ブケレ大統領は表明通りにこの法案をエルサルバドル議会に提出し、議会で可決されました。
ビットコインが一国の法定通貨となることが決まったことになります。
仮想通貨(暗号資産)のみならず、既存の通貨(法定通貨)にとっても歴史的な決定となりました。
今回はエルサルバドルで起こっているビットコインの法定通貨化に向けた動きを、背景にあるエルサルバドルの経済環境を交えて紹介していきます。

ブケレ大統領のビックサプライズ

2021年6月4日と5日、ビットコインの最大級のカンファレンス「Bitcoin2021」が米国フロリダ州のマイアミで開催されました。
新型コロナの影響で開催地が当初のロサンゼルスから変更になったにも関わらず1万5000人もの参加者で盛り上がりました。
そのBitcoin2021の初日に動画で流されたのがナジブ・ブケレ大統領のスピーチです。
ブケレ大統領は「ビットコインを法定通貨として認める法案を議会に提出します」と発表し、カンファレンス最大のサプライズとなりました。

法定通貨に決定

発表の翌週、大統領の発表通りに法案は議会に提出され可決されました。
エルサルバドルは世界で始めてビットコインを法定通貨として認め保有する国家になりました。
法定通貨としている米ドルと並んでビットコインを法定通貨に位置付けて使っていこうという法改正です。
また厳密にはビットコインをそのまま使う訳では無く、前払い式のサルバドル・ビットコイン的な通貨を発行して流通させる計画の様です。
技術的にもビットコインそのままでは国単位の決済をこなすには処理能力が不足するため、こうした対応が賢明と考えられます。
更にライトニングネットワークというビ小額決済に適した仕組みを使って決済を処理します。
サルバドル・ビットコイン(仮)の導入に向けて、政府は国営銀行に預けた1億5000万ドル(約165億円)相当の信託金を原紙にしてドルとの交換を保証するとしています。
今回の法改正と同時に、エルサルバドル政府は米Strike社らと連携して国内にイノベーション局を設立し、仮想通貨関連企業や人材を積極的に誘致する政策を打ち出しています。

マイニングにも本格参入⁉

更にブケレ大統領は2021年6月9日に更なる政策をツイッターで発信しました。
エルサルバドルの国営地熱発電会社ラ・ゲオ社(La Geo SA de CV)の社長に火山エネルギーを使ったビットコインマイニングの計画立案を指示したという内容です。
大統領によれば、地熱エネルギーによるマイニングは、非常に安価で、クリーンで、再生可能で、排出ガスゼロになるとの事です。

エルサルバドル

エルサルバドルは九州の半分ほどの国土に約664万人の人口を抱える中米の小国です。
経済的には非常に貧しく、隣国のホンジュラスグアテマラと共に米国に流入する移民・難民の排出国でもあります。
最近はかなり改善してきているとは言うものの、治安が悪く国際的なマフィア組織が影響力を持っています。

■国名 エルサルバドル共和国
■英語 Republic of El Salvador
■首都 サンサルバドル
■人口 約664万人(2018年)*
■面積 21,040㎞2(九州の約半分)

■GDP 246億ドル(第102位)*
■通貨 米ドル

* 外務省発表データによる
** 2020年 IMF発表データによる。

ドル経済の国

エルサルバドルには実質的な米ドル経済の国という特殊事情があります。
エルサルバドルには元々コロンという自国通貨が流通していたのですが、2001年1月に米ドルへの全面転換が行われて現在ではほぼ米ドルが通貨として流通する市場となっています。
こうした国は決して珍しい訳では無く、アジアのカンボジアなども都市部では実質的に米ドルが流通する経済圏となっています。
こうした実質的に自国通貨が無い国家であることが仮想通貨を採用する大きな背景としてあります。

バナナ共和国

エクアドルと隣国のホンジュラスグアテマラを含めた3ヶ国は中米の三角地帯と呼ばれ、貧しく治安の悪い地域として知られています。
20世紀初頭、中米ではユナイテッドフルーツスタンダードフルーツという米国企業が大規模な農園を建設し、その資金力で各国の政治を牛耳りました。
国民の大半が米企業の農園で働く小作農と化し、他の農作物を育てないために食料を輸入に頼って貧困が進むという悪循環に陥って行きました。
この三角地帯は皮肉も含んだ意味合いで「バナナ共和国」とも呼ばれています。
内戦を経て治安も悪化し、三角地帯では「MS13」「M-18」という2つのギャングが3ヶ国に跨って抗争を続けており犯罪も頻発しています。
こうした背景もあってエルサルバドルは貧しく、輸出品もバナナやコーヒー位で他に有力な産業もありません。
国民の生活はその大きな部分を海外の出稼ぎ労働者からの送金に頼っています。
その一方で国民の7割が銀行口座を持っておらず、高い手数料を払ってブローカーに送金を頼んでいたりする状況があります。
仮想通貨であれば、中間業者を間に入れることなく、早く安く安全に送金をすることが期待できるという利点があります。

ビットコイン村

エルサルバドルには先行して2020年7月に「ビットコイン村」が実現していたことも今回の決定の後押しとなったかも知れません。
サーフィンの聖地として有名な観光地のエル・ゾンテ村(El Zonte)では村にビットコインで高額の寄付があった事をきっかけに、2019年以降ビットコインの導入が進められ、2020年1月にはビットコインのATMが設置されるなど仮想通貨への対応をいち早く進めていました。
これを更に進化させたのがビットコイン村の構想で、エル・ゾンテ村ではビットコイン決済のインフラ整備が進み、電気料金からタコスまでビットコインで払える様になりました。
村では村民の大半が銀行口座やクレジットカードを持っておらず、その一方で携帯電話(スマホを含む)の普及率は高く、ビットコインを基盤にしたキャシュレス経済がある程度浸透しつつあります。
こうした試験的事例を見て政府がビットコイン採用に影響を与えた可能性も否定できません。

他の国への波及

エルサルバドルのビットコイン法定通貨化の決定を受けて、ブラジル、パラグアイなど南米諸国を中心に政治家や経済界の要人達から相次いでこれを指示する発言が出されました。
中南米には米国の経済力の支配に反発する向きも多く「ドル支配」に抵抗する動きにも映る
ブケレ大統領の表明はある種の英雄的行為とも見られた様です。

法定通貨と仮想通貨に与える影響

エルサルバドルの決定が法定通貨、仮想通貨(暗号資産)双方に与える影響も計り知れません。
サルバドル・ビットコイン(仮)を国際的にどう位置づけるかについて世界中が困惑しています。
法定通貨であれば日本で言えば外為法の適用対象(外貨)となりますが、そうすると様々な問題が生じる可能性があり、多くの指摘がなされています。
またマネーロンダリングの観点で言えば、ビットコインを経てドルに買えるルートが生まれるなどの問題もあります。
最終的には法定通貨と仮想通貨の中間のカテゴリーを定義してそこに位置づける可能性が高そうですが、国際的に解決しなければならない問題が多そうです。

まとめ

エルサルバドルは米国に経済的に大きく依存しており、通貨でも米ドルの支配下にある実情があります。
米国では新型コロナ対策もあってドルが大量に発行されており、発展途上国に深刻な影響を与えています。
ビットコインの法定通貨採用には不安な面も大きいですが、そうした状況を打破する大きな手掛かりとなるかも知れません。
いずれにしても仮想通貨(暗号資産)にとっては大きな転換点となります。
今後ともエルサルバドルの政策とその成果について注目していく必要はありそうですね。
最後までお読み頂き、ありがとうございました。

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