MUFGコイン(MUFG Coin)とは
MUFGコインは三菱UFJフィナンシャル·グループ(MUFG)が開発している仮想通貨です。
2019年後半にも実用化されるとアナウンスされているコインです。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)と言えば国内トップのメガバンク 三菱UFJ銀行を擁する、いわば法定通貨をベースにした既存の金融業界の中核とも言うべき企業グループです。
そうした企業グループが、相反する存在にも見える仮想通貨(暗号資産)を自ら開発しようとしていると言う事で、多くの業界から注目を集めています。
MUFGコインとはどの様なコインで、どの様な展望を持っているのでしょうか。
■通貨名称 MUFGコイン(coin) ※仮
■通貨単位 未定
■公開時期 未定
実証実験が進行中
MUFGコインは、2017年の5月にMUFGグループの社員約1,500人を対象にして実証実験が始まりました。
同年10月には、幕張メッセで開催された「CEATEC JAPAN 2017」に出展し、MUFGコインを使って専用の自動販売機からドリンクを購入できると言うデモンストレーションを行ないました。
スマートフォンにMUFGコインのQRコードを表示させ、自動販売機がコードを読み取る事で購入ができました。
その後もMUFGグループ社員の半数に及ぶ8万人を対象にした大規模な実証実験も始められており、実証実験の反応も好評との事です
MUFGコインの特長
MUFGコインでは、スマートフォンにアプリをダウンロードすると、アプリだけで送金や決済ができるようにななります。
既存の金融システムと比べるとブロックチェーンを利用することで送金時間が短縮され、同時に手数料も大幅に安くする事が可能です。
大きな特長となるのが1コイン=約1円に価格を安定させると言う点です
2018年1月のコインチェックのネム(XEM)大量流通事件や、事件以降の仮想通貨(暗号資産)全般の価格急落を受けて、仮想通貨 (暗号資産) を不安視する声が高まっています。
MUFGコインではコインの価値を1コイン=約1円で安定させる事で、安心してMUFGコインを使用できる様にするとしています。
1コイン=1円
MUFGコインは1コイン=約1円に価値を安定させる事によって幅広いサービスに利用される事を目指している仮想通貨(暗号資産)です。
法定通貨に紐付け(ペッグ)している仮想通貨(暗号資産) としてはテザー(USDT)が代表的です。
テザー(USDT)は米ドルと1ドル=1USDTのレートにペッグしています。
MUFGコインは日本円に対するペッグ通貨と言う位置付けになります。
日本円にペッグしているのであれば、原則的には仮想通貨(暗号資産)の投資対象としてはメリットがありません。
MUFGコインのペッグが機能している限り1コインは1円の価値のままです。
だったら仮想通貨(暗号資産)を作らなくても普通に日本円を使えば良いのではないかと言う疑問が出てくるかと思いますが、MUFGコインを発行する事にはいくつかの大きなメリットがあります。
中でも特にMUFGにとって大きなメリットとなるのが、キャッシュレス化を推進する上での核としてのMUFGコインと言う役割です。
世界は急速にキャッシュレス化している
現在、世界では急速にキャッシュレス化が進んでいます。
先進国の現金決済率は今や平均で32%程度と言われています。一方で日本の現金決済率は約65%に及んでいます。
日本は突出した「現金決済大国」と言う状況にあります。
日本のキャッシュレス環境が貧弱と言う事では有りません。
クレジットカードやデビッドカードが使えるお店は多く、プリペイド型のカードもEdyやnanacoなど、多種多様なサービスが展開されています。スマホ決済だって普通にできます。
それにも関わらず日本でキャッシュレス化が進んできませんでした。
現金が好きな国民気質と言うものもあるでしょうが、それと併せて現金を使う環境が非常に優れている事が大きく影響していると見られます。
例えば偽札を掴まされる心配が少ないとか、いつでもどこでも現金を引き出せると言った日本人なら当たり前に考えている環境です。
日本の現金決済環境
日本では偽札を掴むリスクが殆どありません。
日本の紙幣・硬貨の製造技術が非常に高い上に、現金の流通もほぼ国内のみに限られ管理しやすい事から、偽札や偽コインが流通するリスクが非常に低い環境にあり、安心して現金が使える環境と言えます。
現金の引き出しもとても簡単です。
日本は銀行の店舗が比較的多い上に、銀行間の連携も進んでいて、多くの銀行で預金を引き出せます。
銀行はもちろんですが、スーパーやコンビニなどにもATMがくまなく設置されてほぼ24時間のサービスを受けられます。
こうした背景から現在でも現金が決済手段の中心で有り続けている訳です。
ATMと巨額のコスト
この現金決済大国を支えているのが現金を引き出せるATMの存在です。
日本国内には銀行や信用金庫、郵便局(ゆうちょ銀行)などにATMが13万7千台、コンビニやスーパーなどに5万5千台、合計約20万台ものATMが設置されています。
現金の利用者にとってはとても便利なATMですが、ATMの設置には本体が1台当たり約300万円、加えて警備や監視などセキュリティ対策に1台当たり月30万円のコストが掛かります。
大量に設置されているATMの維持・管理コストだけでも年間7600億円の費用が発生しています。
ATMなので、当然引き出しに応じる為の現金ストックも各機に必要になります。
現金輸送のコストや現金を扱う要員の人件費迄含めると年間2兆円もの費用が発生しています。
キャッシュレス化が進めばこうしたコストを大幅に圧縮する事が可能になります。
データ管理のコスト
データ管理の効率化もMUFGコインの導入で期待される大きなメリットです。
現在、各銀行はそれぞれが全ての取引データを中央サーバーで管理し、システム開発やセキュリティ対策に多額の投資をしています。
MUFGコインはそのブロックチェーン上に全ての取引記録が書き込まれて行くので、それを利用する事で高水準のセキュリティを確保しながらシステムの開発費・維持費を劇的に抑える事が可能と見られています。
MUFGコインはビットコイン(BTC)などとは異なり、ブロックチェーンに記録した情報を特定の管理者が管理する、プライベートチェーンと呼ばれる方式で制度設計されています。
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の管理部門が記録を管理する仮想通貨(暗号資産)と言う事です。
リップル(XRP)などもプライベートチェーンを採用していますが、より中央集権的な志向です。
ビットコイン(BTC)を始めとする多くの仮想通貨はProof of Work(PoW)という承認アルゴリズムを採用しています。マイニングが有る仮想通貨(暗号資産)と言った方がイメージは掴みやすいかも知れません。
これは何らかの悪意を持った者がブロックチェーンを攻撃する可能性を前提にして考えられた承認の仕組みです。
これに対してプライベートチェーンでは、ブロックチェーンに記録を書き込む承認者を信頼すると言う前提で、承認の仕組みを非常に簡単にする事ができ、それによって取引処理に掛かる時間と手間を大幅に短縮する事が可能です。
MUFGには日本最大級のメガバンクグループとしての信用が有り、承認者としての信用を得やすい存在と言えます。
コスト削減競争
銀行のコスト削減競争はキャッシュレス化とブロックチェーンの導入によって一気に激化すると見られています。
二つの要素によって生みだされるコスト削減の効果は圧倒的で、対応に成功した銀行と乗り遅れた銀行との間には決定的なコスト競争力の差が発生してしまうと見られています。
みずほ銀行の大規模なリストラ策が報道されたのは記憶に新しい所ですが、他の銀行もMUFGと同じ様な危機感を持ってコスト削減・経営効率化を目指して動き出している事は明らかです。
個人間送金のメリット
銀行のコスト削減効果は分かりましたが、利用する私達の側にはどんなメリットが有るでしょうか。
むしろこちらの方が重要かも知れません。
まず挙げられるメリットがP2P (Peer-to-Peer)送金です。
自分の口座のお金を他の口座に送金しようと思った時、現状では銀行やATMから振り込みをして、銀行の中央システムを経由してお金を相手口座に移動させる必要があり、手数料も発生します。
そこにMUFGコインを介在させる事でより低コストでの送金が可能になります。
P2P送金はビットコイン(BTC)をはじめとする仮想通貨(暗号資産)の大きな特徴です
銀行口座毎に専用のMUFGコインウォレットを紐づけておけば、自分のウォレットに有るMUFGコインを相手のウォレットに送金する事で中央サーバーのシステムを経由せずに送金できます。
取引データの管理はブロックチェーンで自動的に記録されてしまうので、瞬時にかつ低コストで送金することが可能になります。
口座の管理
銀行口座の開設には非常に手間がかかり、同じ銀行で複数の口座を開設する事はそれ自体が難しくなっています。
その一方で仮想通貨(暗号資産)のウォレットを作ることは非常に簡単です。
銀行側の管理コストも高くありません。
なので仮想通貨(暗号資産)を使えば複数の口座開設も容易にできるようになります
決済手数料が下がる
店舗でクレジットカードを使って決済をする時には決済毎に店側がカード会社に数%の手数料を支払っています。
クレジットカード払いを受け付けていない店舗があるのはこのためです。
仮想通貨(暗号資産)決済であれば手数料を大幅に抑える事も可能で、店側も気軽にキャッシュレス決済を採用する事ができるようになります
マイクロペイメント
MUFGコインを使うことにより、マイクロペイメント(小額決済)が可能になります。
クレジットカード決済などが難しかった小額決済もキャッシュレス化されることで、より利便性が増していくと思われます。
スマートコントラクト
MUFGの公開資料には「異業種によるColored Coinを発行できるプラットフォームを展開」と書いてあり、将来的にはMUFGコインをベースにしたカラードコインを発行できる様になると思われます。
カラードコインとは、ブロックチェーン上で仮想通貨以外の情報をやり取りできるようにしたコインを指します。
MUFGコインは将来的にはイーサリアムの様にスマートコントラクト機能も持たせる方向性であると見られます。
1コイン=約1円の仕組み
前述した様に、MUFGコインは1コイン=約1円と安定した価値を持たせようとしている仮想通貨(暗号資産)です。
どの様な仕組みで1コイン=約1円を実現させるのでしょうか。
日本円にペッグさせた仮想通貨の例としては、ブロックチェーン推進協会(BCC)が発行した仮想通貨(暗号資産)Zenが存在します。
Zenは日本円に対して為替が安定した仮想通貨(暗号資産)を志向しています。
BCCは2017年の7月から11月にZenの安定稼働や価格の安定性(1ZEN=約1円)を検証する実証実験を行なっています。
Zenが価格を安定させた仕組みはシンプルです。
仮想通貨の価格は市場では売りと買いの需給関係によって決定する為、BCCCが他の取引量に対して常に大量のZenの買い注文を1 Zen=1円で入れておけば、自然と価格はZen=1円に収斂していくというロジックです。
1ZEN=1円に大量の買いが入っている事でまず1円以下にはならず、価格が1円より高くなる少し待てば1円付近まで価格が落ちるからそれまで待とうという意識が働く為にZenの買い注文が少なくなり、価格は1円付近まで下落する事になります。
ところがこのZenの仕組みを、そのままMUFGコインに持ち込んで価格を安定させる事は現実的ではありません。
MUFGコインの流通量はZenの実証実験とは全く比較にならないほど大きくなる見込みであり、取引量より遥かに大量の買い注文を入れると言う事がそもそも困難なのです。
MUFGコインの販売所
MUFGコインの価格を1コイン=約1円 に安定させる方法についてはまだ公開されていませんが、既に発信されている情報からある程度予想する事ができます。
MUFGは、MUFGコインの公開に伴って自ら取引所を開設する方針を出しています。
基本的にユーザーはこの取引所でMUFGコインと日本円を交換することになります。
ここでMUFGコインを販売所形式で取り扱うとなれば、かなりシンプルな形で為替の誘導が可能です。
極端な言い方をすれば、販売所が買値を常に1円以上、売値を常に1円以下に設定すればレートは安定する訳です。
但し買値と売値の差(スプレッド)が余りに広がる様で有ればMUFGコインはユーザーの支持を失う事になるでしょう。
完全に1円にはできない!?
もっとシンプルに、発行コインと同じ円を担保して、いつでも円と交換できる様にすると言う方法もあります。
この方法なら1コイン=約1円では無く1コイン=1円に固定する運用も可能になります。多くの電子マネーはこの方式で実際に運用されています
前述のテザー(USDT)などもこれに近い考え方で設計されています。
では何故1コイン=1円では無く、約1円とされているのでしょうか。
MUFGコインの場合、価値を1円に固定する事には日本の法律の問題があります。
日本では資金決済に関する法律(資金決済法)で仮想通貨(暗号資産)の定義がされているのですが、国内法の定義と照らし合わせると、1コイン=1円として完全に固定した場合には仮想通貨(暗号資産)では無く通貨建資産となり電子マネーと同じ扱いになります。
法律上電子マネーでは100万円以上の送金を銀行を介さずに行なう事ができません。
つまりMUFGコインを1コイン=1円に固定してしまうと100万円以上の送金や決済が直接できなくなってしまうのです。
主にはこの点からMUFGコインは1コイン=約1円と言う制度設計になってたと見られています。
Jコイン
MUFGコインに対して、みずほフィナンシャルグループやゆうちょ銀行、地方銀行らが協劜て開発している「Jコイン」と言う独自の仮想通貨もあります。
実はMUFG側も当初はJコインと言う名称を考えていたのですが、先にみずほ側がJコインの名を公開して展開を進めてしまったと言う経緯があります。
Jコインはみずほが日本IBMと共同で開発を進めていた「みずほマネー」とは別物です。
Jコインは1コイン=1円で金額が固定されています。
従ってJコインは法的に「仮想通貨」では無く「通貨建資産」となります。
100万円以上の取引を銀行を介さずに実行する事は出来ません。
この弱点を解消する為に、みずほフィナンシャルグループらはJコインのための新銀行を設立すると言われています。
Jコイン開発陣が意識しているのは、中国のアリペイや米国Apple Payなどの新しい決済手段への対抗です。
その為にみずほグループだけでは無く、幅広く仲間を募って開発を進めています。
実はMUFG側も、MUFGコインをグループに限った展開では無くオールジャパンで展開して行くイメージを持っています。
その為、将来的にMUFGコインとJコインは統合して行くのではないか、統合するべきと言った意見も出ています。
しかしながら、一つには法的定義の違いが有り、更には抱えている技術の違いによって両コインの統合は極めて困難な状況にあります。
その為、少なくとも当面は両者がそれぞれ開発·流通を進めて併存して行く展開になると見られています。
リップルへの参加
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、MUFGコインの開発を進める一方で、仮想通貨リップル(XRP)の事業活用にも乗り出しています。
2017年3月31日、三菱東京UFJ銀行(現三菱UFJ銀行)は、リップル社が主催するグローバル銀行間コンソーシアム「Global Payments Steering Group(GPSG)」への参加を発表しました。
GPSGは世界中の大手銀行が手を組み、リップルを活用して優れた国際送金サービスを構築しようとしている企業連合です。
2018年度中にはリップルのシステムを使った国際送金サービスを開始するとしています。
一方国内送金の分野では、SBIグループが主導する企業連合である「内外為替元化コンソーシアム」にも参加しています。
国内の送金・決済や、国内からの海外送金をリップルを活用する事で、生産性を高めながら利便性も大きく向上させようとしています。
USCへの参加
MUFGは、MUFGコインの開発やリップル・ネットワークへの参加と言った動き以外にも、仮想通貨(暗号資産)やブロックチェーンの様々なアクションを起こしています。
MUFGは2017年にはスイスの大手金融会社UBSが主導する企業連合に参加しました。
このグループではUSC (Utility Settlement Cain)と言う電子通貨を発行しようとしています。USCは米ドルや円と言った法定通貨と等価交換できる様にして、銀行間の取引や決済を迅速化・低コスト化することを目指しています。
まとめ
この様にMUFGグループはリップルなど様々なブロックチェーン事業と手を組ながら、独自の仮想通貨MUFGコインの開発を進めています。
当然、様々なアクションを補完できる様な形にMUFGコインをブラッシュアップさせて行くと見て間違いありません。
今後MUFGコインを使ってどの様なサービスを展開して行くのか、注目して行くべきだと思います。
今日も最後までお読み頂き、ありがとうございました。
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